国立大学附属病院感染対策協議会および中央感染制御部設置の経緯
平成11年に、医療施設におけるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染や結核菌感染症例
の報告が相次ぎ、さらに、同一医療施設内でのセラチアやセパシアによる同時多発感染
及び死亡事例が発生し、医療施設内での細菌感染(いわゆる院内感染)への対策が急務
となりました。
このような医療施設内における細菌感染は、各種の抗菌剤に耐性を獲得している多剤耐性菌、
特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現と蔓延が主たる原因であり、一般的に
感染防御能力が低下している高齢者や、高度先進医療を受ける臓器移植や癌治療患者、
侵襲の大きな術後患者など感染防御能力が低下している患者の生命予後に影響を及ぼす
ため、早急な対策が必要となって
います。
国立大学病院では感染対策委員会がいち早く設置され、それを強化する目的で文部省
は感染専門看護師を平成7年に各大学に1名設置することを開始し、平成10年には整備が
完了し、またInfection Control Team(ICT)も組織化され感染対策に取り組んできました。
しかしながら、一般医療機関と同様、国立大学病院でも病院内感染患者の発生動向が同じ
基準で集計されておらず、院内感染発生率の全国平均や他の医療機関との比較ができない
ため、当該病院の院内感染対策の達成度がわかりにくいことが指摘されていました。
また、本邦の病院環境に合わせた抗菌薬や消毒薬の使用に関するガイドラインも存在しません
でした。
そこで、それまでの各大学病院の感染対策の成果と問題点を踏まえ、国立大学病院が本邦
での院内感染対策を主動的に遂行・発展させるため、「国立大学病院感染対策協議会(仮称)」
の設置を、全国国立大学附属病院長会議の下に設けられている国立大学附属病院長会議
常置委員会に提案致しましたところ、全面的な了承を頂きました。
これを受けて、第1回国立大学病院感染対策協議会(仮称)に先立って、設立準備委員会が
平成12年5月に名古屋で開催され、今後の活動目的の設定や、各種作業部会の設置を決定
しました。
また、同年10月に開催された第1回国立大学医学部附属病院感染対策協議会の際、会の
名称を、「国立大学医学部附属病院感染対策協議会」として正式に決定しました。
(その後、平成16年から「国立大学附属病院感染対策協議会」へ改称)
名古屋大学医学部附属病院は、協議会活動に積極的に参加してきただけでなく、設立準備
委員会当初から事務局が設置され、国立大学附属病院感染対策協議会の事務局機能も
担ってきました。
このような経緯から、さらなる基盤整備とセンター機能の確立による国立大学病院全体の
総合的かつ恒常的な感染対策にかかわる活動を一括して管理運営し、総合的な院内感染
対策を実施することを目的として、平成15年に名古屋大学医学部附属病院に中央感染制御部
が設置されました。
中央感染制御部の機能として下記の項目を重点的に活動しています。
① 国立大学病院統一サーベイランスの実施
② 国立大学病院感染対策ガイドラインの改定
③ 国立大学病院の院内感染事例の症例登録とそのデータベース化
④ 国立大学病院の院内感染発生時の要因分析
⑤ 多剤耐性菌の分析と菌株の保存
平成23年度より、公立大学及び防衛医科大学校が正式会員となり、新たに「国公立大学附属
病院感染対策協議会」と改称し活動をしております。